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[あ、先輩っもう少し右。はいOKで─す、守王(すおう)さんはソファに座ったままでいいですから顔だけ出しといて下さいね。って神谷(かみや)くん! 写道(しゃどう)くんに被ってるよ、前前。はい、じゃあ撮りま─す]
[橘(たちばな)、そのデジカメはタイマー設定できるから早く並べ]
[マジっすか! そういうことは渡す時に教えといて下さいよ先輩…]
集団のほぼ中央、後ろ側に佇む黒髪眼鏡の青年の言葉にデジカメを構えて盛んに指示を出していた茶髪の青年は意気消沈する。
[橘さ─ん、]
[早くしないと遅刻するのですが……]
[ぇ、もうそんな時間?! ごめんね守(まもる)くん、喬(たかし)くん! えぇと~あ、これですねタイマー。じゃあ今度こそいきますよ、い─ち、にぃ─、さ─ん]
カシャリ。
無機質な効果音と共に、その一時が映像として形を成した。
画面には、リビングにあるソファを背景に真新しい制服を着た少年二人と着慣れた制服姿の少年が二人、そして残ったこの家の住人である青年三人が写っている。
[また家族の記念が増えましたね! ]
[『寄せ集め』のね]
[もう守王さんは! 落とさないで下さいよっ]
[ほんとのことだし]
[兄貴、俺ら先に行ってるけど]
[あぁ。俺たちは開始時刻に合わせて行くから]
[別に来なくていいよ]
[喬くぅん、そういう寂しいこと言わないでよぉっ]
[あはは…じゃあお先に失礼しますね。参りましょうか、喬様、守様]
今日は、高校の入学式がある。
[親父…式に間に合うかな? ]
[さぁ? 僕は会いたくもないけど、でもあの人ならなにがなんでも間に合わせる気がする]
[兄さんもそう思う? 実は兄貴も同じこと言ってたんだ]
[うわっ…高(こう)にしたのと同じ質問を僕にもするなんて、守は意地が悪いね]
[それは兄さんには言われたくないかな─]
自宅の玄関を幾らか離れた所で、同じ背丈と顔を持つ兄弟は顔を見合わせた。片方は不快そうに細い眉をひそめ、もう片方は心外だと言わんばかりに目を丸くする。
[さすがはご兄弟。ね? 写道]
[あぁ…そうだな]
春を飾る桜の花弁が舞い散り、少年たちの軌跡を遺してくれる。
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