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[はい、千葉(ちば)です──父さん? ]
弟たちが出発してから数分経った後、玄関近くの固定電話が鳴り響いた。
今や数年間家長を努めている黒髪眼鏡の青年が受話器を取れば、相手は彼の父親であった。
[あ─うん、もう出たよ。うん、そう、四人で。そういえば父さん、式が始まる時間分かってる? …ぇ? それの三時間前だよ…]
しっかりしているように見えてどこかしら一つ二つ、多い時は五つほど一気に抜けている彼の父親はやはり開始時刻を間違えて記憶していたようだ。青年の利発な横顔に汗が伝う。
[分かった。俺たちは先に会場に行くから、…はちゃめちゃな事をして周囲に迷惑かけないように。はい、じゃあ後で──]
念の為に一言釘を刺して受話器を置いた。
[暮巴さん間に合いそうですか? ]
振り返ると、茶髪の青年が支度も疎かに部屋から顔だけ出しているのが見えた。
[さぁな。あの様子だと、完全に間に合うはずないんだが…]
[だが? ]
[高のお父さんなら、ヘリのパイロットを脅してでも間に合わせるんじゃない? ]
見上げると、二階からこちらを見下ろす二つの空。
[ですよね─]
[空軍の最新機でもチャーターするかもね]
[有り得そうですね─]
[お前ら…他人の父親だと思って──まぁ、一理あるけど]
念の為の念押しも、恐らく意味は成さないだろうことは容易に予想がついた。
[俺は覇王(はおう)さんに迷惑がかからないか心配だ]
[いいよ別に、あんな人。遣える時に遣わなきゃ]
[守王さんてお父さんにも辛辣ですよね…]
[大っ嫌いだし]
[あ─…。]
[とにかく、俺たちもさっさと支度するぞ]
[[は─い]]
式が始まるまで、残り一時間。三時間も勘違いしていた父親が間に合うかどうかなど、彼らにとってはそれほど問題ではないようだ。
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