第1話

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「ふん…私の考えでは何処の世界、いかなる相手であろうと挨拶というのは最も重要な事だと思うのだ。つまり、私が言いたい事はただ一つ……おはようございます!」 「は、はぁ……お、おはようございます。」 その日、帝殺 勇魔(みかどごろし ゆうま)の一日はコスプレイヤーとの遭遇から始まった。 『ゴキブリ魔王』 今、目の前にいるコスプレイヤーを一言で例えるならそれだ。 競輪選手のヘルメットみたいな形の兜は嫌な黒光りをしており、額の辺りには2本の触角がピョコンと生えている。 顔は、鬼みたいな表情の目が4つ有るマスクで隠されており表情は読めない。 ガタイの良い体は、漆黒の作業着の上から、胸、肩、腕、脛(すね)、と全て流線型を基調とした黒光りの甲冑で覆われている。 そんな、明らかに怪しい方が商店街のド真ん中で声高々に、こちらに向かって挨拶してきたもんだから、勇魔は困った。 嫌ね~何かしらあれ?、何かの撮影?、でもカメラとか無いよぉ?、特撮? 時間は朝の8時、出勤中のリーマンや、商店の方々、勇魔の通う高校を含むここら一帯の学校の学生。 などが、見て見ぬフリをしつつザワザワとこちらを見て何やら言っている。 待ってェ!この変態は僕とは無関係です!! と、勇魔は心の中で悲痛な叫びを上げた。 実際、目の前の変態は、ついさっき商店と商店の間から勇魔の前に偉そうに腕組みしながら出て来て冒頭に戻るだ。 「ふん…敵に対して呑気に挨拶か?随分と余裕だな?勇者よ。」 ゴキブリ魔王がまた何やら言ってきた。 勇者?勇者って誰ですか?僕、勇魔ですけど? とか誤魔化し、このままスルーしようかと一瞬、考えなくもなかったが、あちらさん明らかに勇魔をガン見して言うものだから無視出来ない。 ていうか、向こうから挨拶してきたくせに怒られた。 「あの、人違いじゃありません?俺、勇者じゃないですよ。」 ビビッているのか知らないが、敬語口調になっている自分がムカツク。 「ふん…自覚症状なし、か。些(いささ)か張り合いは無いが、考え方を変えれば楽で良い。」 それが、癖なのかゴキブリ魔王は回りくどい喋り方で一人ぶつぶつ言っている。
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