それは不気味な誘い

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  「あ。引っ越しって、今日なんだ」 窓から見下ろすと、隣の家の前にはトラックが止まっていて、業者らしき人が段ボールや家具を運んでいた。 だから、あたしが無意識にそう思ったって、全く不思議じゃない。 そして、その家のものらしき、黒い車から出てきた一人の人間に、あたしが異様に目を奪われたのも、全くもって不自然じゃない。 「なんじゃ、ありゃ……」 普通、真夏に車と同化しそうな真っ黒なコートを着て、サングラスにマスクをした人が出てきたら、だれだって目を見張るでしょう? あたしだって、もちろんそうだ。 「ふ……、不審……」 なにを独り言を言っているのかと、自分でも思ったけれど、最近は慣れっこだ。 あたしは、独り言が勝手に出るタイプらしい。  
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