第一幕

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  「……?」 荷台に座るタスクが、突然後方を振り返った。 すぐそばに何かの気配を感じたが、そこには何者の姿もなかった。 「……タスク? どうかした?」 前サドルでペダルを蹴っていたラズリーが尋ねた。 二人は村の中心に在る、市場の通りを走っている。 流れていく地面に視線を落とし、タスクが訝しげに眉をひそめた。 「今なんか……」 「今なんか?」 「呼ばれたような気がした……けど、多分気のせいだ」 そっか、とラズリーは言って、 「でも、一瞬なんか"重く"なったよね」 「……」 そう言いながら目を細めた。 道に建ち並ぶ出店から活気の良い声が聞こえてくる。 二人はそれっきり無言のまま、賑わう店の間を走った。
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