別れ

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トラックの近くに横たわったギンは、目を閉じ、声をあげず、じっと必死に痛みに耐えていた。 漆を塗ったような艶やかな毛並みは失われ、今にも消えてしまいそうな、小さな小さな、呼吸を辛うじて続けている状態であった。 「ギン?…しっかりして!ギン!?」 ハルヒが呼びかけると、ギンは目を開け、じっとハルヒを見つめた。 生きてる…。助けなきゃ。 「ママっ!!ギンが…。ギン助けて。」 ハルヒの悲痛な叫びは、周りの音にかき消される。周りの大人たちは、ギンとハルヒに構わずなおも作業に追われていた。 ハルヒの切実な願いを叶えてくれる大人は現れなかった…。 それでも、ハルヒは叫ぶことを止めなかった。 何度も、何度も。ギンの名前を呼び続けた。喉が悲鳴をあげても…。 ギンの呼吸が止まるまで…。
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