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「げろげろげろげー……」
酷い揺れです。
わたしの乗っている古い小さな船は、海の高らかな波に撫でられこれでもかと言わん許りに船体を揺らします。
乗り心地は、今日初めて船に乗ったわたしにはよくわからないのですが、あまり良くはないです。
船旅は優雅で気持ちの良いものだというのはどうやら嘘のようでした。
「大丈夫ですか……?」
あまり大丈夫じゃないです、と。答えようとしたのですが。また船が揺れて、喉元まで胃の中のものが――。
それを見て察したらしい、自称金髪美人有能秘書風だという眼鏡メイド様の遥香に優しく背中を擦ってもらいながら、わたしは答えを口に出す代わりにぶんぶんと首を振ります。
「……そうですか」
彼女はわたしの背を優しく撫でながら、ため息を一つつきました。
まったくもって。我ながら不細工な姿だなぁ、なんて思いはしたのですが、
「――うっ、げろげろげぇえ……」
これはもう、どうしようもないのです。
今さらなんですが。普段からインドアヒッキーニートのもやしっ子であるわたしに船旅なんてものは荷が重過ぎると思うのです。いや。本当に今さらなんですけどね。
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