2章 ~アストレア~

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 なんとなくオフィスを見渡してみる。  特にいつもと変わらないな―― と思ったところで、2枚のホワイトボードが目に入った。  一枚は、いつもは大きくででんと、誰がいくらの契約をとったかが書かれている。  生保だから、すごい数字が並ぶこともあるのだ。  私は1億とったことあるし、飛鳥は企業保険をとってきたので……  あれ? 何億だったかな。  とんでもねー数字でビビったのに、綺麗に忘れてるよ。  しょせん、他人事だからね。  もう一つのホワイトボードは、行き先と帰社時間を書く、営業の会社には必ずあるようなやつだ。  どこでもそうであるように、うちでも直行のやつがいたり、朝イチでアポがあったりするんだけど。  一期生二期生あわせて50人くらいなので、キャンペーン月には、朝から何人かがいなくて、帰社予定が10時とか11時とかなってる。  それを見ると、キャンペーンだなあ、なんて思ってた。  当たり前だけど、今はどの名前の下も、白い。  もう営業にはいかないんだな――  そう思うと。  ちょっとだけ安心して。  その後に、津波みたいな不安が、どどーんと押し寄せてきた。  これからどうなるんだろう?  車のローンは?  もうボ払いにしちゃったGUCCIのバッグの支払いは?  あ、彼氏達も……  契約者で、担当はもちろん契約をとった私なわけだから、今後の手続きあるもんなあ。  辞めちゃえば、関係ないけど。
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