2章 ~アストレア~

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 私は、同期の伊藤舞子に顔を寄せた。  寄せたと言っても舞子のデスクは向かいなので、ぐぐっと身を乗り出して、舞子の顔をのぞき込む格好になる。 「まあちん、何人おる?」  “まあちん”は、“まいちん”がなまった呼びかただ。  去年、飛鳥が同期全員を“ちん”付けで呼び始めたの最初だった。  私が“結衣”だから、“ゆいちん”と“まいちん”だとわかりにくいということで、いつの間にか舞子のほうが“まあちん”に変わっていた。  ガキっぽいけど、妙な一体感があって、一期生は実によくまとまっている。  舞子は、私の簡単な問いだけでわかってくれた。 「多いよ。関連会社が全部私になっとるから、ざっと見ただけで120人くらい」 「マジで? じゃあ、私は少ないわ。100人おらんくらい」 「これ、人によってかなり違いそうだね」  隣りの二期生も、プリントアウトした名簿を見て唸っていた。  二期生二人も5~60人程度はいるようだ。  うちのチームは4人。うち一期生2人、二期生2人で、男チーフの鬼頭泰利チーフのデスクが引っ付いている。  鬼頭チーフは28歳。小さいイケメン。  なんというか、微妙。  4人で大きな溜め息をついていると、鬼頭チーフが、 「人数が多いのはわかっとる。だで、さっさと行動する」 と、尻を叩いてきた。  なんとなくイラっとしたので、反抗してみた。 「昼休み以外は電話しないように言われてるんですけど」 「家に電話すればええが。奥さん、おるだろ」  ごもっとも。  すごすごと引きさがった私は、端末に向かって、自宅の電話番号がある契約者を探した。  名簿には、姓名と勤務先と、加入商品しか載っていなかったのだ。  つくづく使えない端末だよ。  もともと、本当に使えないんだよね。  形はノートパソコンのディスプレイだけ、というとわかりやすいと思う。  それにケーブルでキーボードが繋がっている。  持ち歩いて、その場でプランを出せるという発想で作られたらしいけど、重いし、何より、“仮定”の計算しかできないので、持ち歩いている丸生営業職員はいなかった。  破綻してからもウザいんですけど。  名前で検索をかけて、電話番号を名簿にメモる。  いっそ、問合せの電話でもくれればいいのに。  その時、私はやっと気が付いた。  朝から電話が全く鳴っていないことに。
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