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春の陽光が、病室内を明るくしていた。ドアに取り付けられた小さな窓から、外を眺める彼女の白い顔を京は確認した。
「…姉さん」
京の口をついて出た言葉は後にも先にもそれだけだった。彼女の顔を見てから数時間、京は栄未と口を聞こうとしなかった。
「…栄未!」
「弥亜子ちゃん…」
二人の間の沈黙を破ったのは他でもない、弥亜子だった。どこからともなく連絡を受けたと思われる彼女は若干の焦りを表情として表していた。
「…朝子が…見つかったって?」
「ホンモノはすごく美人ね」
「栄未…」
栄未の反応と言葉は、確かに彼女の気持ちを簡潔に表現していた。栄未は今日この病院に来るまで、『市川朝子』を雑誌のインタビュー記事や、数枚の写真でしか知ることがなかった。そしてそれは京の実の姉の『依知川 朝子』ではなく、作家の『市川朝子』の姿だった。
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