1年と3ヶ月前。

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新歓から数日後、栄未の方から連絡がきた。俺はなんとか仕事を片付け、彼女が指定した喫茶店へと足を運ぶ。 「先輩!」 喧騒の中、微かに甘い子供っぽい声が耳を打つ。声のした方向に栄未と、もう一人の姿が見えた。二人の前に座り、一言だけ発した。「何でお前がいるんだ?弥亜子」 「あらー酷い言葉ねぇ。あたしだって栄未とお友だちになったんだもん」 それ以上質問するのが面倒になり、新しい煙草に火をつける。 弥亜子は俺が大学時代唯一と言って良い程の友人で、幼なじみとも呼べる人間だった。そんなやつが栄未に興味を持たないハズがなかった。何処かで一人興醒めしている俺に、栄未がはしゃいだ声を上げる。 「そういえば先輩、小説家の日凪 京だって弥亜子ちゃんから聞いたんです!!」 どこか自分自身に興味を持てない俺は気のない返答をした。それでも構わず栄未は鞄から俺の著書を取り出す。「あたし先輩の大ファンなんです!サインしてくれませんか?」 油性マジックを取り出し、一人はしゃぐ栄未にまた興味が持てた。俺は仕方ない、というカンジを出しながらサインを書く。すると突然栄未が嬉しさのあまり泣き出した。俺はその行動に不適な笑みを浮かべた。
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