壱頁─眠りと始まり

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七夕の日に、短冊に願いを書いて笹に吊るせば願いが叶うという。 流れ星に、三回願いを唱えれば、願いが叶うという。 着けていたミサンガが、自然に切れれば願いが叶うという。 ならば聞こう。 この世界と違う、別の世界に行きたいなど、あまりにも大それた願いをしたならば、それは叶うだろうか?否。 そんな筈がないだろう…… 「ねぇ冷め子~、あんた何を願うの?」 「冷め子言うな夢子。なぁんも。強いて言うならあんたが私の視界から消えてくれることを願うかな。」 今日は七月七日。 俗に言う七夕だ。 女子達は短冊に願いを書き、年に一度しか抱き締め合う事を許されない織姫と彦星を見守り、己の想い人に思いを馳せる。 既に恋仲の一握りの者達は、互いの温もりを確かめ、離れぬようにと手でも握りあっているのだろう。 かくいう私も女子であるが、自他共に認める変わり者で、こういう綺麗にまとめられた物語が苦手な質で、 ハッピーエンドのシンデレラより 泡になって消える人魚姫派。 そもそも、星はそうそう動かない。 故に、織姫と彦星は出逢うわけが無い。 百に一つ出会ったとしても、それこそ大変な事になる。 それに、この地球上から見える星空は何百年も前の物。 リアルタイムの物ではない。 それを見てときめく乙女心というものが知れない。 いっそ、知ってみたい程私には縁がない…と思ってる。 いや、実際の所そうなのだが。 「ねぇ、冷め子はなんでそんなに冷めてんの?あたし等17だよ?普通恋に夢見る青春満喫中でしょう~!」 「冷めてるから冷め子なんでしょう?てか私、遊梦ですが。ついでに私二月生まれだから16ですが?ってかあんたも十二月生まれで16でしょうが」 私は川瀬 遊梦(カワセ ユウム)。 不本意ながら、通称冷め子…らしい。 そしてさっきから私に青春を説く彼女は榮元 深徳(サカモト ミノリ)。 幼なじみで、通称夢子。 因に今は理科の授業中だ。 このクラスは普段から私語が多いが、理科は特に多かった。 だから別にこの会話が目立つ事はない。 それに、多分今日、この学校…いや、この国で一番多い話題は七夕についての事。 そこら中で、誰が、何を願ったのかを聞く声がする。
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