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「圭、桜っ!」
仕事帰り、眠静まる街の暗い歩道でカツカツと音を刻み先を行く少年、雪之が振り返る。
ただ、その距離を見詰めていた俺は嬉しそうに綻ぶ顔で初めて空を舞う花びらに気付いた。
四月とは言え肌寒い夜は苦手。
早く帰宅して寛ぎたいとか、
疲れているのも相俟って思わない訳はないけど、立ち止まって天を仰ぐ自分より少し小さな姿に不思議と心地良い温度を感じて寄り添った
「桜とか、綺麗なのに何で早く散っちゃうんだろうな」
俺よりも少し小さな手の平を丸めて落ちる花びらを見詰める。
冷えて赤くなったそれを向かい合って両手で包んだ。
パッと俺を見上げた顔と
少しだけ震えた肩に
言わない寂しさを見付けた。
「あ、花びらが…」
引き寄せて揺らいだ雪之の
手の平から花が散っていく。
気付かない振りして俺は
静かに誓いをたてる。
舞い散る花びらを仰ぐ君に
変わらぬ温もりを永遠に。
「…圭、お花見したい」
「今度な今度」
(終)
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