【It's compensated in rain.】

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「雪乃ーっ」 事件から一月が過ぎた。 「なぁに、パパ」 「パパは止めて」 傷を癒す事は不可能だろう 明るく振る舞ってはいるが 夜中、悪夢に魘れたり 突然に泣き喚いたりと心的後遺症は残っている。 ある程度落ち着いても 一つだけ気になる事があり、 聞き辛くも雪乃に尋ねた 「どうして雪乃だけ助かったのか」と言うことに 彼は哀しく微笑んで 「雪稀が逃がしてくれた」 と応えた。 雪稀は雪乃の兄で綺麗な少年だった。彼は両親の不穏さを日々感じていたらしく、 事件当日、父親が帰宅する前に 雪乃に外で遊ぶよう促した。 自分が後から迎えに行くからと 言い諭して。 しかし、迎えを待てども現れぬ兄を気にして日が暮れてから家に向かうと既に火は回っていたという。 「俺、兄ちゃん大好き」 語り終わった後に笑顔で自慢する雪乃の中では雪稀は死んでなんかないと感じた。 例え身体を無くしても、雪乃にとっては永遠に大切な兄なのだ ―パタパタパタ 「なぁに」 好きにしていいと与えた部屋から駆けてくる雪乃の呼び掛けにハッと我に返りながら苦笑する。 「座って?」 ダイニングに設置したテーブルに合わせた椅子。 自分が座っている隣の席を勧めて向かい合う。 何だか判らない雪乃に微笑み 首に腕を回す。 ―チャリ。 「え、圭?」 「気に入るかは判らないけど」 圭が雪乃に着けたのは シルバーで出来た精巧な翼モチーフのネックレス。 スワロフスキーのストーンが収まり、とても美しい物だ。 雪乃は手の平にトップを乗せ 見詰めた。裏に返した時 「…これ」 “Dear*0404” 「雪乃が家に来た日。 俺の家族になった日を雪乃の新しい誕生日にしたいと思って 雪乃が生まれた日は大切だけど、新しい家族の誕生日を一緒に刻んでいきたいなと思ったんだ」 …勝手かな、 そう続けた圭の言葉をネックレスを見詰めたまま黙って聞いている雪乃に不安になる圭。 「…ごめ 「圭…………大好きだ!」 ガタンッ 椅子から飛び降りて圭に抱き着く雪乃。 この日から、 圭と雪乃の新しい日々が始まる 幸福にしてみせると誓いながら 圭は雪乃を抱きしめ返した。 「圭、お腹空いた!」 「………お前なぁ;」image=147004462.jpg
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