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おぼろ月に浮かぶ少女
少女は眠っていた。
無機質なモニターの中で蒼白い光沢に抱かれて眠る少女。
白い雪の肌が悲しいまでに儚く、消えてしまいそうな幻影のように映し出される。
それをモニター越しに見つめる青年。
シェルターが放棄されて何年になるだろう。
青白い光彩を放ち続けるブラウン管を見つめたまま、青年はふっとそんな事を考えた。
月面第三シェルター外面予備施設ルアーク。
試験的に開発された月面都市に人類が移住を始めて30年。
当初移住は順調に進み、新しい時代の幕開けを感じさせた。
誰もが月面に夢をいだき、未来に希望を見ていた時代。
青年も月に理想郷を描き、思い夢みていた時代。
そんな夢の時代を思い出させる無垢な少女の寝顔。
モニターに映し出された少女はまさに、そんな時代の夢の形のようだった。
生存者がいたとはな。
ため息混じりにそんな夢想を考える。
バカな夢だ。
現実的に考えて生存者がいる筈がない。
いたとしても現在まで生きている筈が。
だとしても少女の無垢な寝顔に希望を見てしまう。
月面都市が廃棄されて何年になるか。
確か今年で7年くらいか。
青年の思考ははげしく迷い揺らいでいた。
最初に信号を受信した時は間違いかっと思った。
それが救難信号で月面から出されているとは思えなかった。
事故から7年、未だに月面に生存者がいるとは思えないし、未だに都市電力が活動しているとも思えなかった。
だが救難信号は月の方角から出ているようで、なぜか少女の映像、正しくは寝顔が永遠と流れている。
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