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「来栖(クルス)、和羽(カズハ)聞こえてるか?」
ノイズに混じり、地の底から涌き出したような低い声が無線機の奥から響いた。
「へい聞こえてますぜ隊長」
それに宇佐美が軽薄に応答する。
「隊長、聞こえてます」
閃も応答に答えた。
「よし二人とも宇宙航行規定法は知ってるな?」
確認と言うよりはこれから話す事のまえふりのようだ。
「はい」
「もしかしてサルベージュ権利ですか」
宇佐美が俺の返事に被って声を上げた。
いつもに増して鼻息が荒い。
「二人ともわかっているようだが、一応確認しておく」
「イェサー」
和羽が待ちきれないように、敬服の声をあげる。
「まだ何も言ってないぞ!」
呆れたような声が無線越しに届いた。
溜め息が聞こえてきそうだ。
「宇宙航海条約第1条に基づいてこれから我が船は、月面都市からの救助要請に従い救助に向かう」
(マジで!)
宇佐美のその声が聞こえてきそうなほどのガッツポウズで、拳を振り上げている。
「閃もそれでいいな」
「はいもちろんです」
航海法とは世界条約で、全ての船舶は救難要請を受けた場合その救助に向かわなければならない。
これを破れば航海免許は永久に剥奪され航海は出来ない。
この時、沈んだ相手の船に残った金品は始めに救助に向かった船舶の物となる。
これをサルベージュ権といって、地球の海面上の法律とほぼ同じである。
だが今回はどう見ても生存者はいない。
救難義務も今回に限りはないと思うが、そこは建前。救助と言う名目で月面都市に残された遺産を合法的に盗掘じゃなく、いただける訳だ。
和羽が最初に救助じゃなくサルベージュと言ったのも、そこいらを示唆している。
艦長も建前だけは取り繕っているものの、今回の任務はそうだと暗黙的に示唆していた。
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