おぼろ月に浮かぶ少女

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それから30分、減圧室で俺と和羽は減圧を受けていた。 これは宇宙飛行士にとっては、もはや常識であるが。 宇宙服を着るという事は、真空の世界に出るという事である。 そこはなんの圧力もない世界だ。 宇宙服を着て船外に出た場合、最初にその辺りが問題になる。 普段地球で暮らしている人間には認識しづらいが、地球でも我々は日常的に空気の圧力を受けている。 深海魚が深海のこう圧力を受けても潰されないように、人間にも空気の圧力がかかっているのだ。 宇宙服は服の中に空気を溜めて真空の宇宙でも息が出来るように作られている。 空気が入っているという事は膨らむ訳で、外にも空気がある場合は押し潰そうとする圧力で均等がとれているが、圧力の無い真空では押さえつける力が働かず空気は膨らみ続ける。 そのままでは宇宙服はパンパンに膨らみ身動きが取りづらくなるのだ。 そのため宇宙服内の空気を薄くして膨らみを最初限度に押さえる必要制が出てくる。 宇宙服の中は空気が薄いのだ。 それで問題が解決し、すぐに宇宙服を着て船外に飛び出せる訳ではない。 次に問題になるのが人間の体の仕組みである。 人間は急激に気圧の低い(空気の薄い)場所にいくと、血液中の酸素が空気の泡となって、その気泡は血管を詰まらせ血液の流れを止め死にいたらしめるのだ。 そこで徐々に空気を薄くして、体を徐々に慣らしていく必要制がでてくる。 減圧室はそのために造られた部屋なのだ。 減圧室に入って30分そろそろ減圧も終わる頃である。 減圧室に備えられた窓からは色彩に乏しい月の表面が映っていた。 和羽が大きなあくびをし始めた時、唐突に頭上から無機質で濁った声が耳朶を打った。 「よし減圧は終了した。二人とも、もう宇宙服を着ていいぞ」 船長の変に間延びし低くひび割れた声は、室内の空気が薄いために音の振動が鈍っている証拠である。 それを合図に俺と和羽は無言で立ち上がると宇宙服を着始めた。 白黒の無骨でデザイン性皆無の宇宙服を着終わると同時に、室内の空気が一斉に抜かれ始めた。 10秒たらずで減圧室の空気はなくなり、外と同じ真空状態となっていた。
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