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びしっと指を突きつけられた社員8は真っ青な顔で後退りした。
「そ、そんな副総統閣下、俺は本当に貰ってなんかっ!」
「貰っただろう、ナンバー8」
静かに総統は社員8に語りかけた。
「君は貰ったはずだ。ナンバー8だけじゃない。諸君の殆どが貰っている筈だ、返すべき義理を」
思わせぶりに一拍間を置き、総統は言った。
「お母さんから、貰ってるだろう? 諸君」
あ! と思い出したかの様に口を押さえた社員8に副総統は厳しく諭す。
「ナンバー8君。確かに、お母さんからのチョコなんて我々、ぶっちゃけ嬉しくもなんともないさ。ああ、今年もお袋からしか無いのか。そう思いながら、いつしか貰うのが当たり前になる。むしろ『来年は彼女から貰えると良いわねぇ~』なんて皮肉まで付いてくる! ってかそのチョコ、トップバリ○ーの特売299円じゃねーか! なんでそんなのに返さなきゃいけないんだよ! とか考える。でもな、一応貰ったからには返さなきゃならんのだ!」
「副総統、ちょっと私情挟みすぎ…」
総統に窘められ、彼ははっと我に返ったらしい。ゴホン、と軽く咳払いをした。
「ま、まぁ兎に角。義理チョコならぬ義理返しだ、曲りなりにも日々の掃除・食事・洗濯をこなし我々を育ててくれている母親。キャンデーの一つでも返す義理は十二分にあると私は考える」
しゅん、と社員8は首をうな垂れた。
「さすが副総統閣下。なんてお優しい考えだ。俺、今年はお袋にちゃんと返します! 今まで貰ってばっかだったから…。あぁ姉貴からも貰ったっけ……」
「俺も貰ったなぁ」
「俺も返すよ!」
周囲からも賛同の声が続いた。
「うむ。忘れがちな家族チョコ。でも義理返しは忘れずにな!ちゃんと値段は三倍返しだ!」
『はい! 総統閣下!』
社員全員が朗らかに返事をした。
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