現在

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腕時計に目をやる。時刻はすでに二十二時を過ぎており、彼女の家の電気も付いていなかった。 「夜分に悪いよ。両親によろしく言っておいて」 「ごめんね……。ここまで送らせて。ただ一緒に居たかっただけなのかもしれない」 「えっ……?」 俺は素早く問いただした。今まで付き合って強がりな彼女が、口にしなかった言葉だからだ。嬉しさもあるが、余計に胸中に不安が募る。 「そうゆうこと。じゃあ気をつけてね」 そう言ってドアの向こうに消えた。最後は笑顔だったものの、デート中終始浮かない顔だったように思う。 そんな彼女を見送り俺は、来た道を引き返し、藍沢駅を目指す。 虫の知らせというのだろうか……?俺にも何か言葉には出来ない嫌なものが、頭の中に霞んでいた。 まさか……。と俺は嫌な予感を感じながら、電車に飛び乗った。
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