過去

8/18
前へ
/241ページ
次へ
「でも美穂働き屋さんだね。俺は足が付いていかない」 「慣れたらすごい楽な仕事だよ。正直あれで時給八百は大きい」 「みんな時給八百にこだわんだな。孝夫もこれで時給八百はデカいとか興奮してたから」 悠生が話した内容がおかしかったのか、美穂はひとしきり笑った後こう答えた。 「悠生って意外。案外面白い奴じゃん」 美穂が喜んでいて嬉しかったが、どこがおかしいかわからず困惑した。でも笑ってくれることで、心の中がポッと温かくなった。 「次だよね、駅」 車内アナウンスが悠生の降りる駅名を告げた。これも言ってないことだから、悠生は驚いた。 「君の力には驚きだよ」 「そうかな。私これには慣れたから」 遂に電車がゆっくりと減速していき、止まった。 「じゃあまた学校で」 「気をつけて帰れよ」 気をつけて帰れよ……。本心からそう思った。悠生は惜しみながら、美穂に手を振り別れた。 電車が去っても、手を振り続ける美穂を見て、体中熱を帯びていくのを感じた。この時、すでに悠生は恋に落ちていた。
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3494人が本棚に入れています
本棚に追加