9人が本棚に入れています
本棚に追加
『なあ』
反響する音。
それが声だと判断する前に灯りがばちんと音をたてて消える。
首の辺りに圧迫感を感じて、声の主に首を絞められているのだと判断した。
抵抗するのもだるく、自分の腕に力を込めて突き飛ばす気にはなれなかった。
『俺を置いていくなら』
ぎりぎりと首を強く絞めあげられて、くぐもった声が漏れる。
酸素を吸うことも二酸化炭素を吐くことも出来ない。
視界が狭くなって、意識が途切れ途切れになっていく。
ああ自分は死ぬのだと理解した。
『殺すよ』
咽の圧迫感が消えて、二酸化炭素ばかりになっていた体に、酸素が入り込んでくる。
巧く呼吸が出来なくてむせかえる。ヒュー、ヒューと音をたてて息を吸い込んだ。
『殺してお前の体を貰う』
じゃあ殺せ。
お前にくれてやるよ。
置いて行かれたくないなら奪えばいい。
俺は抵抗なんかしない。
『だけど、俺はお前が』
嫌だ。聞かない。
思わず強く耳を手で押さえ付けて塞いだ。
けど頭に直接響く言葉には意味がなかった。聞いてしまった。
『気に入ってる』
嫌になって叫んだ。思いきり。
「殺せ────!!!!!俺を殺せ──!!!!」
もう一人の俺自身は、一度泣きそうな顔に歪め、そして笑った。
『じゃあ俺を殺せ』
迷わず首に手を掛けた。みりみりと音がするほど強く、強く締め付けた。
表情は見えない。笑っているのか泣いているのか、はたまた歪めただけだろうか。
やがてかくり、ともう一人は力を抜いた。
俺の心には俺自身の死体と、もう一人の俺が立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!