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「えーちゃんえーちゃん」
こんな寝苦しい夜なのに、どうしてもてつが修学旅行みたいに寝たいって言うから、布団を並べた。
布団は別々なのに、てつは布団の中に侵入してきた(最初は俺も抵抗してたけど段々面倒になって止めた)。
ひとつの布団に大の大人しかも男二人とかむさくるしくて仕方ないのに、てつはチビで童顔だからどうも騙されてしまう。
「てつ、暑い。離れて」
「やだー。それよりさ、えーちゃん」
いつになく真剣な声だった。
てつとは背中合わせだったはずなのに、なんとなく振り返ったらてつはこちらに体を向けていた。
闇のなかでも浮かぶ真ん丸な目に吸い込まれそうだ。
「こうやるのも最後やし、いいやん?」
そう、てつは明後日引っ越す。
学校も遠い遠いところになる。
幼馴染みだから、今まで離れたことなんてなかった。
いつも一緒が当たり前だったのに。
「えーちゃんが心配や」
エセ関西弁が、心地好い。
「馬鹿。俺のが心配だっつの」
てつはどんくさくて、人見知りで、さみしがり屋で、泣き虫で。
心配の種は尽きないのに。
「えーちゃんはかっこつけやし、怒りっぽい、自分勝手、頭悪い、上手くいかないとすねるし」
「てつだって」
布団の中で笑い合った。
普段は気恥ずかしくて言えない言葉が、すらすら出てくる。
霧消にてつが愛しくて、小さな体を抱き締めた。
髪からおんなじシャンプーの匂いがするのに、どこか甘くて。
「えーちゃん、」
てつの声は上擦っていた。
シャツの胸辺りがじわじわと濡れていく。
俺も何だか泣きたくなって、てつの肩に顔を埋めた。
「てつ」
「えー…ちゃ、ん」
今の時代、電話もメールもあるけど、ずっと隣に居た片割れがいなくなると思うと辛かった。
一緒にいた。
生まれてから、今まで。
離れたことがなかった。
友達とも違くて
恋人とも違う
家族じゃないし
「てつすき」
「えーちゃん、それ色々誤解を招く」
「いいじゃん、たまには」
「いくないよ」
「えーちゃんすき」
「馬鹿」
眠らない、
今日という日が、終わらないで。
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