第一話「ループ」

4/27
前へ
/110ページ
次へ
 しかし、刹那──。  少女はゆらりと揺らめいた。 「ちょっ……! しっかりしてください!」  僕は思わず少女を抱き止めていた。  腕の中の少女は酷く震えていたけれど、僕が敵ではないとわかった途端、体を預けてきた。 「い、今救急車を呼び──」 「──呼ばないで……!」  少女は声を振り絞るように言うと、そのまま意識を失った。 「だ、大丈夫ですか!」  揺すってみても反応はない。  しかし、救急車を呼ばないわけにはいかない。警察も──呼ぶべきであろう。  なのだが。  僕は。  少女が眠っているだけだとわかった瞬間、呼ぼうとは思わなくなった。  少女の身に何があったのかは知らないけれど。  今だけは。今だけは眠らせてあげようと思った。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加