温もりハンバーグ

32/39
前へ
/161ページ
次へ
「ふぅ~」 つい、気の抜けた息を吐いてしまう。 それにつられてか、ピタッ、と蛇口の先から雫が床に落ちた。 浴槽から出る蒸気を眺めながら、僕は笑みを浮かべた。 「気持ちいい~!」 タオルを体に巻いたまま、浴槽にゆっくりと肩まで浸かる。 やっぱり気持ちがいい。 この時間で一日の疲れがとれると言っても、過言ではない。 「はぅ~……、いい湯加減」 両手でお湯をすくい、それを顔にかける。 パシャパシャッ、と水が弾く音が浴室を満たす。 お風呂に入っている時が一番幸せだ。 だって、この時間帯のみ、兄さんに何もされないんだよ? あの変態妄想の兄さんの魔の手から、一時でも逃げられると思うと、これ程幸せな事はありません。 いや、本当に。 それくらい、僕にとってはお風呂の時間は重要なのだ。 「はぅ~……もう、最高だよ~」 両手を頬に当てて、嬉しい声を上げて喜ぶ。 ああ、この時間が一生続けばいいのに。 でも、さすがに一生だと上せてしまうよね……。 「惜しいな……はぁ~」 天井を眺めながら、浮かばれない溜め息をつく。 ……その時だった。 「――お風呂、お風呂……っと」 溜め息を吐き終えたと同時に、浴室のドアの向こう越しで兄さんの声が聞こえてきた。
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3633人が本棚に入れています
本棚に追加