温もりハンバーグ

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何度もドアを引いたり、押したりしているが、ドアが開く気配はない。 兄さんの顔つきが険しく変わっていく。 「どうか……したんですか?」 僕がそう聞くと、兄さんが額に冷や汗を垂らしながら、笑い顔を見せる。 「ドアがな、……開かないんだ!」 「……へ?」 「いや、だからさ……。ドアが――!」 「に、二回も同じ事を言わないでください。それよりも、ドアが開かないってどういう事ですか!」 僕の苛立った声が浴室を響かせる。 兄さんは何かを思いついたのか、手を打つ。 額から出る汗の量が、更に増している中、兄さんが口を開く。 「あー……。 多分、俺が浴室に入る前に出した体重計が遮っているのかもしれない……かも」 「……ああ、やっぱり。兄さんのせいなんですね」 「そ、そうなる……よな! あ、あははは……はは……」 げんなりした顔を浮かべて、僕は兄さんを睨んだ。 たじろぎながらも、兄さんは笑顔を崩さず、なんとか保っている。 「あははっ、すまん!」 すまん、じゃありませんよ。 はぁ……。 まぁ、幸いにも海人が、保健室の件についての話で九時に家に来てくれるから、それまで二人で待っていれば助かるのだが。 ……あれ? ……二人で……? 「……っ!」 思わず舌を噛んだような声を上げてしまう。 「ん、舌でも切ったのか? 大丈夫か? 蛍」 兄さんが心配そうに伺うが、そんな事を気にしている場合ではなかった。 海人が家に来るのは九時。 僕が入る前の時間が八時だとして、それから十分くらい経ったとして、後五十分。 その五十分間、兄さんと二人きりでこの狭い浴室の中を一緒にいなければならない。 お互い、体にタオル一枚巻いた程度。     さすがに兄弟だと、変な事にはならないとは思うのだが……。             でも、これは……もしかしたら、すごく不味い状況じゃないのだろうか?              
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