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勢いよく振り返ると、伊藤邸の風呂場の窓から蛍が上半身をさらけ出していた。
「…………」
プチッと鼻の中から音が鳴って、温かくなっていくのを感じる。
だらだらと鼻から赤い血が流れて、ポタポタと地面に落ちる。
「行かないで! 助けてよ!」
何やら、必死な顔をして俺に助けを求めていやがる幼馴染様。
助けを求める表情がなんだか色っぽい。
髪もツインテールではなく、しっとりと濡れていて、余計に色気を引き立たせている。って、なんで解説なんかしているんだ俺は。
……いや、でもまて。それよりもだ。
もっとおかしい所があるはずだろうが、海斗よ。
そう、そうだ。
蛍は“風呂場で上半身をこちらに晒し出している”だろう。
まぁ、バスタオルで巻かれていたため、裸ではないが、しかしもともと豊かな胸がさらに強調されている。
この距離でもそれは充分わかるくらいだ。
そう……この距離でも、だ!!
もちろん、反射的に俺は胸の方へと視線がいってしまう。
……友達とは言え、侮れない。
目のやり場に困る。釘付けだ。
「た、たぁたた! 助へれって、何ぶぉら!?」
蛍の裸にも近い姿に不意打ち食らい、不覚にも噛みまくってしまう。
……落ち着け、俺。
手を突っ込んだままのポケットからティッシュを取り出して鼻血をふき取る。
「ふ、風呂場のドアが何かに引っかかって開かないんだ! それで閉じ込められている! だから、海斗には家の中に入ってその引っかかっている物をどかして欲しいんだ!」
「わ、わかった! でも、家の鍵は――」
「家の鍵なら開いたまんまのはずだから早く! このままだと兄さんが!」
「わかった……って」
――えぇええええええ!?
蛍の焦った声が引き金となって、俺は急いで体を動かす。
だが、俺も内心焦っていた。
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