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あまりの声の大きさに耳を両手で塞いでしまう。
はぁ~……。
兄さん、だから……近所迷惑ですってば……。
「な、なら……いつもの兄さんに戻ってください」
僕は兄さんの側に近寄り、手を再び差し伸べた。
「わ、わかった……」
兄さんは僕の手を掴むと、地面からゆっくりと起き上がり、立った。
落とした鞄を僕が拾い上げて、それを兄さんに渡す。
「兄さん……はい、鞄」
「……あ、ああ」
鞄を受け取った兄さんは、やりすぎたと思ったのか、反省の顔色を見せていた。
「ごめん、蛍」
これは意外だった……。
捨てられた子犬のような顔を浮かべて、兄さんが、ボソッと謝罪の言葉を呟いたのだ。
兄さんが自分から謝る事は、珍しい。
というか、滅多にない事だ。
……ちょっと……言いすぎたかも……。
「反省したなら、……いいですよ」
クスクスと苦笑しながら、僕は兄さんの頭に手を置いた。
そして、そっと、優しく、頭を撫でていった。
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