異形の歌姫

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「きみはじつにいい子だね。おかあさんをおもうやさしい心。わしはふかくかんどうしたよ」 テーブルにむかいあったざちょうさんは、わたしを見つめてそう言った。 わたしはなんとなくだまってスープをすする。スープはすこしぬるくて、おかあさんのよりおいしくない。 「ところできみはなんてなまえだい?」 「トイフェル」 わたしはぽつりとざちょうさんにいった。 ざちょうさんは目をぱちぱちしながらせきばらいをした。 「それはほんとうのなまえかい?」 「うん。うちではみんなそう言うよ」 ざちょうさんはしばらくわたしのかおをじっと見て、それからいっぱい笑った。 「こんないいこに『アクマ』と言うか。カミはなんとムジヒだろう!」 ざちょうさんの言ってることはむずかしくてわからない。でもわたしはほめられてるみたいだから、わたしもわらった。
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