2年前の12月24日

3/6
前へ
/105ページ
次へ
匠は急いで部屋に向かうと、母親直伝のデート用の服装に整え、麻依に言われたとおり、戸締まりをチェックして家を出た。 昼過ぎ、匠は待ち合わせ場所のコーヒーショップ「アポロ」にいた。 外の通りが見渡せる2階の窓際の席に座ると、店員にカプチーノを注文した。 匠が窓越しに外を眺めると、いくつもの小さな白が舞い降りてきていた。 匠が住んでいるその街で、その年に初めて見る雪だった。 匠が初雪に目を奪われていると、外と逆の方から名前を呼ばれた。 「匠くん!」 背中まであるナチュラル・ブラウンのストレートヘアに、輪郭の整った小顔。 この少女こそ匠の思い人、朝倉唯である。 「お待たせ、ごめんね、けっこう待った?」 唯が申し訳なさそうに言ったが、匠は首を横に振って答えた。 「大丈夫。 俺も来たばっかだし」 「そう?よかった。 あ、匠くん、お昼食べた? ここのナポリタン、けっこう美味しいんだけど、まだだったら食べない?」 匠は少しだけ考え、 「じゃあ食べよっか」 と言い、ナポリタンを2つ注文した。 唯は匠の正面に座ると、外に目をやり、 「珍しいよね、クリスマスに東京で雪が降るなんて。 秋田のおじいちゃんの家なら、この時期はもう雪がすごいんだけどね」
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

153人が本棚に入れています
本棚に追加