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匠は急いで部屋に向かうと、母親直伝のデート用の服装に整え、麻依に言われたとおり、戸締まりをチェックして家を出た。
昼過ぎ、匠は待ち合わせ場所のコーヒーショップ「アポロ」にいた。
外の通りが見渡せる2階の窓際の席に座ると、店員にカプチーノを注文した。
匠が窓越しに外を眺めると、いくつもの小さな白が舞い降りてきていた。
匠が住んでいるその街で、その年に初めて見る雪だった。
匠が初雪に目を奪われていると、外と逆の方から名前を呼ばれた。
「匠くん!」
背中まであるナチュラル・ブラウンのストレートヘアに、輪郭の整った小顔。
この少女こそ匠の思い人、朝倉唯である。
「お待たせ、ごめんね、けっこう待った?」
唯が申し訳なさそうに言ったが、匠は首を横に振って答えた。
「大丈夫。
俺も来たばっかだし」
「そう?よかった。
あ、匠くん、お昼食べた?
ここのナポリタン、けっこう美味しいんだけど、まだだったら食べない?」
匠は少しだけ考え、
「じゃあ食べよっか」
と言い、ナポリタンを2つ注文した。
唯は匠の正面に座ると、外に目をやり、
「珍しいよね、クリスマスに東京で雪が降るなんて。
秋田のおじいちゃんの家なら、この時期はもう雪がすごいんだけどね」
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