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2人はアーケードの外に出た。
空は灰色の雪雲に覆われたままで、辺りはすっかり暗くなっていた。
駅前通りの街路樹はイルミネーションが点灯していた。
昼過ぎから降り続いていた雪にイルミネーションの光が入り交じって、冬にしか見られない幻想的な夜の画を描き出していた。
2人は少しの間、その景色に見入っていたが、唯は腕時計に目をやると、
「匠くん、一緒に来て」と言うなり、匠の手を掴んで駆け出した。
「唯?
どうしたんだよ、急に」
唯は匠の声を無視して、そのまま走り続けた。
やがて2人がやって来たのは人気のない住宅地の公園だった。
唯は公園に入るなり、公園の中央まで歩いた。
公園の真ん中には大きな樅の木が立っていて、唯はその木の側まで歩み寄ったが、暗闇だったため、匠は唯の動きを確認できなかった。
そして、暗闇の中から唯の声が聞こえた。
「・・・5、4、3、2、1、0!!」
唯が0をカウントした瞬間、突然、辺りが光に包まれた。
匠は何が起きたのかわからなかったが、それがクリスマスツリーである樅の木が放つ光だと気付くのに時間はかからなかった。
「どう?
この木ね、毎年、クリスマスイブの夕方5時から夜の12時の間だけクリスマスツリーになるの」
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