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カイン達が食事を始めようかどうしようかとしていた頃、村の入口に人影が立っていた。
腰の辺りまである長くて滑らかな、しかし怪しく光る血の色をした髪と、腰には日本刀を下げ、上半身は動きやすそうな鎧を纏っている。
そこへ、偶然通り掛かった中年の男性が、その人影に気が付いた。
「ん?……おい、そこのお前、こんな時間にどうしたんだ。
この村に何か用事でも?」
「用?……否、我は魔王様の命により、この地へ参った」
男性の問いかけに、人影は淡々と答えた。
男性は眉をひそめて、表情を険しくする。
「は?魔王?
何言ってんだ、お前。
だいたい、その……」
そこまで言って男性は、言葉を詰まらせた。
腰の日本刀を指差しながらも、目は真っ直ぐに、月明りに照らされて明らかになった人影の顔を見る。
そいつの肌は青く、人間のそれとはかけ離れていた。
「ま、魔物か!?」
男性は震えた声で、やっとそれだけを言えた。
「魔物?……否」
人影は静かに訂正した。
一陣の風が吹き抜けて、長い髪をなびかせた。
「我らは『魔族』なり!
これより地上は、魔王様のものとなられた。
命惜しくば、文字盤の女神をおとなしく差し出せ!」
この瞬間、世界は歪み、狂いだした。
運命の歯車は、いたずらに回り続ける。
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