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カインが完全に石化してしまう前に、イブは既に駆け出していた。
カインの強い意志を汲み取り、頭が判断するよりも早く足が赴いた。
決死の一撃が決まり、魔族の男が大きくよろける。
イブは緻密に計算されたような、無駄のない動きで魔族の男の脇を駆け抜けた。
そして、すれ違う直前に腕を可能な限り伸ばし、長くて滑らかな血の色をした髪を一本抜き去った。
「カイン君、ありがとうです」
そう呟くと、イブはコートの裾をひらりと舞わせ、倒れずに踏みとどまった魔族の男へ向き直った。
「人間、何をした」
魔族の男の問いに、イブは無言でコートの右懐に左手を忍ばせた。
「私は普通の魔法使いのように、炎や風を操ったりすることは出来ないんです。
でも、ですね……」
「むっ?」
魔族の男は刀を中段に構え、警戒を強めた。
イブの全身から視覚で確認できるほどの魔力が溢れ、髪とコートの裾を僅かに浮せた。
翡翠色の双眸は自然と顕になり、カイン同様の力強いまなざしで敵を見据える。
「私は」
左手を懐からゆっくり引き抜く。
その手が掴むものは、
「あなたを呪えるんです」
黄土色をした、わら人形だった。
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