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「なんだっ、これは……!?
体が……」
頭は体を動かそうと信号を送るが、意に反して神経は役割を果たそうとしない。
「私は『呪術師』。
4時の女神は、怨みの先導者なんです。
村人たちの怨みは、私が晴らす」
「ぬうっ……おぞましき力よ」
「なんとでも。
蔑まれることには慣れてるです」
そう言ったイブの翡翠色の瞳には哀愁がほのめき、微かに潤ませた。
うっかり緩んだ涙腺に気付き、慌てて袖で拭う。
そして、左手を右手の甲に重ね、空中で静止するわら人形に向ける。
「『退け』」
イブの口から、本人のものとは思えないどすの効いた低い声が発せられた。
イブを包む魔力が突き出した手を伝い、わら人形へ移る。
わら人形が青白い光りを灯すのと、前に傾いて踏み込んでいた魔族の男が、その体勢のまま足を引くという不自然な歩き方で退いた。
「なにを……おのれ!」
「手遅れだと、言ったはずです」
イブは大きく息を吸い、目を見開くと言霊をのせた。
「『トミノの地獄に巣くいし金色の小羊は彼の証を示す!闇におののきもがけ!』」
突き出す掌とわら人形の間に、黒く光る粒子が渦を描くように集い始めた。
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