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左右が深い林に挟まれた、幅の広い焦げ茶色の道が延々と真直ぐに伸びている。
時折吹く涼しい風が、せわしなく林を震わせる。
時刻は夕方。
地平線に沈みかけた、オレンジ色の太陽を背負った大きな馬車が、二頭の馬に引かれて進む。
布に包まれた大量の荷物を満載した馬車には、馬の手綱を引く青年と、馬車の屋根に寝転がって、まばらに浮かぶ雲を眺める少年がいた。
青年は二十代ほどの黒髪。
少年は十代半ばほどで、短い金髪に精悍な顔つきをしている。
「暇っすねー、リックさん」
少年が屋根の上から尋ねる。
「そうだな、カイン。
何か歌ったらどうだ?」
リックと呼ばれた青年は、馬の背中を見ながら適当に答えた。
カインと呼ばれた少年は、歌か、と小さく呟き、しばらく考えて歌いだした。
「ドナドナドーナードーーナーー……」
「暗い」
リックが短く指摘して、そして双方とも黙った。
馬の軽快なひづめの音だけが辺りを包む。
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