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刹那の踏み込み。
両足は地面を蹴り、僅かに舞った砂だけを残して女性は姿を消した。
本当にあの巨大な鎌を持っているのかと疑いたくなるほどの動きは、本人が停止するまで視覚に映らなかった。
女性が現れたのは、イブの真正面。
「え?」
女性は振りかぶった鎌を右から左へ薙ぐ。
三日月状の刃はイブと正面に浮かぶわら人形を捉え、振り抜かれた。
両断されたわら人形は数本のわらを散らせながら、音もなく地に落ちる。
「なん……で……」
イブは目を丸くして呆然と立ち尽くしていた。
斬られたはずの体に外傷はなく、自身の両腕を不思議そうに眺める。
唯一分かることは、自分から溢れ出て周囲を取り巻く禍々しい魔力が栓をされたように止まり、翡翠の双眸は再び前髪に覆い隠されていることだけだった。
イブは顔を上げると、微笑む女性に尋ねる。
「私、斬られた……ですよね?」
「これが『夜』の力よ。
そして、
おやすみなさい」
「あ…………」
女性が微笑みながら言うと、イブはふっと糸が切れたように意識を失った。
前に倒れ込むイブを女性は片腕で受け止め、そっと地面に寝かせる。
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