12人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
「次、高橋君」
年に一回の高校の健康診断だが、どうやら今年は外れ年のようだ。
というのも、理由があったりなかったり。
(浩平、この学校若い女医が来るので有名だったよな)
出席番号が僕の一つ後ろの佐伯がこそこそ話しかけて来て、僕は小さく頷いた。
(知ってる。でもどうみてもあれは……)
佐伯は真面目な顔で前を見据えると、僕の言葉を引き継いだ。
(“お”で始まって“ん”で終わる奴)
(おっさん?おじいさん?)
(お父さん)
ちなみに“お姉さん”でもありだ。
佐伯は真剣だが、僕は心底どうでもよかった。
「次、鳥居君」
僕だ。
(グッドラック!浩平!)
(その次お前じゃん)
当たり前。
グッドラック俺ーっ!という佐伯の叫びに続いて、保健の先生のうるせぇっ!という一喝がカーテンの向こうから聞こえた。
僕はあえて気にしないことにした。
「じゃあ服上げて」
“お父さん”先生は眼鏡を直すと、聴診機を片手に僕を見た。
僕は服をあげるて、来るべき聴診機の冷たさに備えた。
「はい、じゃあ背中」
かなりキンキンに冷えてた。わざとか?わざとなのか?
「はい終わり、向こうで身長と体重はかってねー」
なにやらファイルに書き込みながら、先生は僕を見ずにそう促した。
青い身長計と青い体重計。
なんかいい値がでそうな気がする。漠然とした予感だ。
体重を量っていると、カーテンの中から佐伯が出てきた。
佐伯は僕を見るなり、「いろんなものが萎えた」、と話した。
「限りないお父さんだったぜ……俺すごい楽しみにしてたのに」
そんな佐伯の身長は174センチだった。
ちなみに僕は165センチの54キロだ。半年前から3センチ伸びて、1キロ減った。
なかなかの好成績だ。
「この後帰っていいのが救いだな」
佐伯はさっさと制服を着ると、僕に僕のスポーツバッグを投げてよこした。
「阿部も伊藤も小高ももう校門にいるってよ」
携帯片手の佐伯を見て、僕は出席番号の早い友人を思い浮かべた。
「渡辺は?」
「あいつ最後だからファミレスで待つことになった」
出席番号とは、時に残酷なものらしい。
僕はふぅん、と相槌をうつと、白いナイキのスポーツバッグを肩にかけた。
最初のコメントを投稿しよう!