Dive

2/4
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
「次、高橋君」 年に一回の高校の健康診断だが、どうやら今年は外れ年のようだ。 というのも、理由があったりなかったり。 (浩平、この学校若い女医が来るので有名だったよな) 出席番号が僕の一つ後ろの佐伯がこそこそ話しかけて来て、僕は小さく頷いた。 (知ってる。でもどうみてもあれは……) 佐伯は真面目な顔で前を見据えると、僕の言葉を引き継いだ。 (“お”で始まって“ん”で終わる奴) (おっさん?おじいさん?) (お父さん) ちなみに“お姉さん”でもありだ。 佐伯は真剣だが、僕は心底どうでもよかった。 「次、鳥居君」 僕だ。 (グッドラック!浩平!) (その次お前じゃん) 当たり前。 グッドラック俺ーっ!という佐伯の叫びに続いて、保健の先生のうるせぇっ!という一喝がカーテンの向こうから聞こえた。 僕はあえて気にしないことにした。 「じゃあ服上げて」 “お父さん”先生は眼鏡を直すと、聴診機を片手に僕を見た。 僕は服をあげるて、来るべき聴診機の冷たさに備えた。 「はい、じゃあ背中」 かなりキンキンに冷えてた。わざとか?わざとなのか? 「はい終わり、向こうで身長と体重はかってねー」 なにやらファイルに書き込みながら、先生は僕を見ずにそう促した。 青い身長計と青い体重計。 なんかいい値がでそうな気がする。漠然とした予感だ。 体重を量っていると、カーテンの中から佐伯が出てきた。 佐伯は僕を見るなり、「いろんなものが萎えた」、と話した。 「限りないお父さんだったぜ……俺すごい楽しみにしてたのに」 そんな佐伯の身長は174センチだった。 ちなみに僕は165センチの54キロだ。半年前から3センチ伸びて、1キロ減った。 なかなかの好成績だ。 「この後帰っていいのが救いだな」 佐伯はさっさと制服を着ると、僕に僕のスポーツバッグを投げてよこした。 「阿部も伊藤も小高ももう校門にいるってよ」 携帯片手の佐伯を見て、僕は出席番号の早い友人を思い浮かべた。 「渡辺は?」 「あいつ最後だからファミレスで待つことになった」 出席番号とは、時に残酷なものらしい。 僕はふぅん、と相槌をうつと、白いナイキのスポーツバッグを肩にかけた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!