Dive

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「どこのファミレス?」 廊下を歩きながら、僕は佐伯に問い掛けた。 佐伯は携帯をいじりつづけながら答えた。 「駅前に新しくできたとこ。名前なんだっけ?」 「あ、わかった。イタリア料理の」 「そうそれ。俺ペペロンチーノ食う」 よくわからない宣言をして、佐伯はげたばこを開けると上履きをローファーに履き変えた。 外では、阿部達がトンカツのソースの話題で盛り上がっていた。 「ぜってぇトンカツソースだ!浩平もそうだろ?」 伊藤が話を振ってきた。 「僕はブルドックのウスター派」 「このインテリ!」 「どんな理屈だ」 「はいはいはーい、俺中濃」 佐伯が入ってきて、小高がそれもうまいよね、と相槌をうった。 「トンカツソースで食うからトンカツなんだろーが!」 伊藤はこだわっているが、僕はウスターソースが1番好きだ。というか、トンカツよりもカキフライのほうが好きだ。 「ファミレス、カキフライあるかな」 「ねーよ、イタリア料理なんだから」 小高につっこまれた。 「ムール貝とか食うじゃん」 「フライにする発想はどうかなー」 学校を出ると、二車線の道路が横に走っている。車通りは少ないが、よくタクシーが抜け道に使っている。そんな感じの道路だ。 それを右に真っすぐ行くとJRの最寄り駅。ちなみに左に真っすぐ行くと地下鉄の最寄り駅だ。 ファミレスを目指して、僕らは右に真っすぐ歩き出した。 「阿部何キロあった?」 いつのまにか話題は健康診断に移っていた。 「俺70キロ。やべーよ超ムキムキ」 阿部は野球部のキャッチャーをやっている。 「いや脂肪だろ、俺58キロー、佐伯は?」 伊藤が抵抗する阿部の脇腹を掴みながら佐伯に振り返った。 「俺ー?63」 「その身長で!?もっと太れ!トンカツ食え!」 衝撃を受けたらしい伊藤は佐伯に自宅のトンカツソースを勧めはじめた。 「このとろみが癖になるから!」 その会話を何となく聞きながら、僕はふと鈴をつけた黒い猫が道路を横断するのを見た。 「飼い猫だな」 小高が呟いた。 僕はその猫が気になって、黒い尻尾がひょこひょこ動くのを見守った。 おや? その飼い猫は道路の中央ではたと立ち止まると、何故か僕をじっと凝視してきた。 そしてその後ろから、トラックが迫ってくるのが見えた。 猫は気付いていない。
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