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目が覚めると、そこは白い壁も白いカーテンも無かった。
当然病院だと思ったのに。というのも、意識が戻ってから記憶が戻るまでしばらく僕が目をつむっていたからだ。
そこは、真っ暗だった。
床と壁の境目がわからないくらい真っ暗だった。
でも僕が横たわっているということは床があるということだ。しかも、総ベルベット張りだ。
「そろそろ起きろ」
低い声が近くから聞こえた。
僕は無視したかったが、声の主がなにやら先の尖った物で僕の頭を小突いてくるから、僕は渋々体を起こした。
「僕、トラックに轢かれて重傷なんだけど」
心底欝陶しそうに、僕は声の主を見た。
視線の先には、いい年したブラックユーモアなコスプレ野郎が仁王立ちで僕を見下ろしていた。
「無傷の奴は重傷とはいわねぇんだよ」
声の主は僕を見下してニヤリと笑った。
僕は、直感的にこいつは好きになれないと悟った。
別に、奴が黒いベルベットのマントを羽織ってるからでも、巨大な琥珀のはめ込まれた杖を持ってるからでも、まして黒いシルクのズボンをこれまた黒い革製のブーツにインしてるからでもない。
さらに言うと、黒のロン毛に金のエクステをメッシュしてるからでもない。
ただ雰囲気が、僕の嫌いゾーンにど真ん中で命中しているというだけである。
「さて」
そんな僕の思考を無視して、奴は唐突に話しだした。
「お前は俺の6番目の下僕となるわけだが……」
「いやならないし」
僕はばっさり言い放った。
新聞の売り込みも悪徳セールスも、最初の態度が肝心なのだ。
あ、いま父さん呼んできますね。
兄貴と待ち合わせしてるんで。
余談だが、大人の男を使うと効果的に追い払える。
「人さらい?警察呼ぶよ?」
まあ僕はもっとダイレクトにいくけど。
しかし奴は少しも怯むこと無く、僕に怪しい分厚い本を見せてきた。
「……残念ながら、魔界連合人間の魂の保護においての条約で決まってんだ。ほら、ここ」
魔界?じゃあこいつは魔人のコスプレをやってるのか?
渋々、僕はそこに目を通した。
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