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“Ⅷ・If anyone should drift about in an accident where your…… ”
何で英語?
「……“事故で人が各自治める国に漂流してきた場合、速やかに保護し職をあたえ魂の回復を援助すること”……あんた王様なの?……というか魂の回復って…」
意味がわからずはんすうしてみると、奴は唐突に僕を指差してあの名言をほざいた。
「お前はもう死んでいる」
ケンシロウである。
「……………」
とんでもないコスプレ野郎だ。胸にはあの北斗七星のシールがはってあるに違いない。
誰かラオウ呼んでやって
って、変態に構っている時間なんてない。
「……わかったから、僕もう帰っていいですか?」
僕はよっこいせ、と腰をあげると、辺りをぐるりと見渡した。
真っ暗だった。
ケンシロウはどこからか玉座を持ち出して、どっかりと腰を下ろすと僕を見つめてきた。
実に気分が悪い。
「帰るって、どこにだ?」
ケンシロウがめんどくさそうに話しかけて来た。
いちいちカンに障る。
「はぁ?家に決まって……」
あ
家って
「……どこだ?」
僕は茫然とした。
有り得ない。家が、思い出せないなんて。
「……お前はトラックに轢かれて死んだんだよ」
真っ暗なのに、奴がはっきり見える。
よく考えたら変だ。
「お前の魂は記憶をこの世界にばらまきながら流れ着いた。ごく稀におこるんだ。世界の境目の乱気流に偶然呑まれたりすると」
ただのコスプレ野郎の声が、魔界の王様が喋るみたいに低く僕の頭に轟いた。
「記憶のない魂は天国にも地獄にも行けない。だからお前はこの世界で記憶を取り戻さなくてはなら……」
「ちょっとだまれ!絶対思い出すから!」
友達の顔。
思い出せない。
体重について喋ってた?
『〇〇何キロ?』
『ただの脂肪だろ、俺58キロー。〇〇は?』
まさか自分の名前は
『〇〇もそうだろ?』
出てこない。何で
家族
何人いるのかもわからない
部活、僕、何年生だっけ?
「納得したか?」
涙が流れた。信じるしかないようだ。
コスプレ野郎は魔界の王様で、僕は死んだ人間の魂。
僕は崩れ落ちるようにベルベット張りの床にへたりこんだ。
「お前の名前を決めなきゃな」
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