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陽が西に傾き、明るい時間の終りを告げる。そんな丑三つ時も近い頃、町から少し外れた森にひとつの人の影があった。
腰のあたりまで伸びた、闇の色にも見える美しい黒髪。
そこから覗く肌は、人のものとは思えない程白く、まるで陶磁器のような艶がある。
スラっと伸びる、しなやかな体。その瞳は、空より澄んだ、そう…まるで宇宙を思い浮かべる程澄み切った濃紺をしている。
普通の人間から見たら、妖艶な美しさを持つ彼女の事を、「人にあらざる者」と思うだろう。
その紅色の唇から言葉を発すると、彼女の指先に小さな光が宿った。
その小さな光は、時間が経つにつれて大きく膨らんでいく。その光が彼女の身長と同じ位まで成長したふっと消えた。
「…なかなかうまくいかないものですね。」
ふぅ、とその小さな唇から溜息が零れた。
「今日はここまでにしておきますか。無駄な力使っちゃもったいないですわ。」
そう言って、彼女が自宅へと足を運ぼうとした其の時、空気がゆらっと蠢き「それ」は現れた。
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