わからないのと彼女は笑う

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「……わからないの。」 ようやくその紅い唇が紡ぎ出した言葉は、僕が予想していたどんな言葉とも違った。 「わからない?」 「記憶がないの。」 歌うような調子だ。 蕾がほころぶように、彼女は微笑んだ。 「でも……」 「空の向こうに行くの……」 風がざあっと吹いて、華奢な彼女が吹き飛ばされてしまうんじゃないかと、僕は半ば本気で心配した。
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