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ふい、と彼が目を逸らした時、やっと私は我に返った。
「あ、あの、見学の方ですか?」
「…ああ」
彼は低い声で肯定した。
それさえ格好良くて、何て綺麗な人なんだろう、と思ってしまった。
着ているコートも、ズボンも、靴も黒。
腕組みしている姿は、ハリウッド映画のエイジェントか何かに出てきそうだった。
「受付は済ませましたか?」
私の声は、スター俳優を目の前にしたファンも同然、緊張で震えていた。
「いや」
彼は端的に、今度は否定を表した。
目がセンターの方を向いているのが幸いだった。
多分、こんな目に見られたら…それこそ畏れ多くて硬直しちゃっただろうから。
「あの、よかったらご案内しましょうか?」
今思えば、よくそんなことを言う勇気があったものだ、と自分に感心してしまう。
彼は本当に格好良くて、クールで、魅力的で。
あの時の私には刺激が強すぎたようにさえ思えるような人だった。
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