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教会の鐘の音が聞こえた。
「ユキナ」
彼の声がそれに重なる。
視界の端に、ぴしっと四角く折り畳まれた、黒いハンカチが見えた。
差し出しているのは、黒い手袋をした手。
「セイ…」
私は思わず苦笑した。
「ばれちゃった? ハンカチ、持ってないって」
「当然だ。泣いているのに、出す気配がない」
「そうだったね…ありがとう」
ハンカチを受け取り、涙を拭う。
「もう…六人だね…」
そんな言葉が、口からこぼれた。
「六人…?」
「六人目なの。大切な人が、いなくなるの…」
「今日は、ユキナが俺と知り合ってから、六回目の葬儀だ」
「うん。センターのジョンおじいちゃんが最初で、スティーブおじいちゃん、ジェーンおばあちゃん…パパとママが死んじゃって、今日はデニー…」
セイと出会って、一年が経った。
介護センターのおじいちゃんおばあちゃんは、もう年だったし、こういうことも少しは覚悟していた。
でも、両親の死はあまりに突然で。
ショックは酷いものだった。
私は悲しくて、三日間泣き通した。
一生分泣いたんじゃないかって思うくらい、泣いた。
そんな、立ち直れなくなりかけた私を慰めてくれたのが、セイと、介護センターで働いていた親友のデニーだったのに…。
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