3074人が本棚に入れています
本棚に追加
直人は伊賀の里に現れた。
木の陰には忍びがいたるところにいる。
『何やつ』
一人が近付く。
映画で見た忍者の格好ではない。
ボロボロのモンペに和服を短くしたようなハッピを着ている。
『服部半蔵殿にお目に掛かりたい』
直人は初めての忍者に内心びくびくしている。
話し方も自信はない。
しかし営業マンはどんなに緊張しても最高の笑顔を出す。
笑顔の基本は歯を見せることだ。
人間も猿の一種だ。
猿の唯一の武器は鋭い犬歯である。
自分より上位の猿に歯を見せることにより、敵意がないことを知らせる行為が笑いなのだ。
この時代の人間は言葉を信用しない。
相手の態度、眼力で真贋を見極める。
『悪い奴ではなさそうだな。親方に何の用だ』
『わたしは商人です。未来から来ました。親方が欲しいと思うものを何でも用意します』
『未来とは何だ』
『ずっと先の世の事です。私は昨日にでも明日にでも行けるのです』
『嘘を申すな。くせ者』
そう言って忍びは刀に手をかけた。
つばが真四角の刀だった。
最初のコメントを投稿しよう!