忍者

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直人は伊賀の里に現れた。 木の陰には忍びがいたるところにいる。 『何やつ』 一人が近付く。 映画で見た忍者の格好ではない。 ボロボロのモンペに和服を短くしたようなハッピを着ている。 『服部半蔵殿にお目に掛かりたい』 直人は初めての忍者に内心びくびくしている。 話し方も自信はない。 しかし営業マンはどんなに緊張しても最高の笑顔を出す。 笑顔の基本は歯を見せることだ。 人間も猿の一種だ。 猿の唯一の武器は鋭い犬歯である。 自分より上位の猿に歯を見せることにより、敵意がないことを知らせる行為が笑いなのだ。 この時代の人間は言葉を信用しない。 相手の態度、眼力で真贋を見極める。 『悪い奴ではなさそうだな。親方に何の用だ』 『わたしは商人です。未来から来ました。親方が欲しいと思うものを何でも用意します』 『未来とは何だ』 『ずっと先の世の事です。私は昨日にでも明日にでも行けるのです』 『嘘を申すな。くせ者』 そう言って忍びは刀に手をかけた。 つばが真四角の刀だった。
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