例えば其れが夢ではなかったとする

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     ――俺、どうしたんだ?  薄らと意識が覚醒する。其れは正に浮上といった言葉が似付かわしいような感覚で、其れに併せてゆっくりと目を開く。 「閉じていて」  ズキリとした痛みと共に、声が聞こえた。ひんやりとした手が俺の目を覆ったのが気持ちいい。 「貴方は体育の授業中、バスケットボールを目元で受けた。此処は保健室。暫く目は開かない方がいい」  ああ、何だかそうだったような気がする。俺のクラスと長門のクラスが合同で、女子コートでのハルヒと長門の活躍っぷりについ視線を向けて…失態だ。  しかし……今の声、聞き覚えのある口調ではあるのだが、聞き慣れたものとは違っていて、俺はおとなしく目を閉じたまま問いかけるため口を開く。 「長門…?」  おいおい、耳まで俺はやられちまったのか?自分の声も違って聞こえる。  俺の戸惑いを余所に、そう、と簡潔に応える人物を一目見ようと、なるべく痛まないようにゆっくりと瞼を持ち上げる。  ――見開くなという方が無理だった。 「いッ……!」 「忠告はした筈。平気?」  再び目を閉じる事になった俺。しかし目の痛みなど比ではない恐ろしいものを目にした後では、其れもあまり気に留まらない。  一瞬だけ見えた画像。長門だと応じた声の主は… 「…つかぬことを聞くが、長門…なのか?」 「肯定。このインターフェースを指す固有名詞は、長門有希 」 「長門…………ゆうき?」 「そう」 「俺の覚え違いでなければ、お前の下の名は"ゆき"じゃあなかったか?」 「否定。貴方に下の名で呼ばれた事はない。貴方の覚え違いだと推測される」 「…そうか」  ってぇ、いや待て待て待て待て。流されるな、俺。自分を信じろ。 「…百歩、いや、一万歩譲って例え仮にもしお前の名が長門ゆうきだったとしよう。しかし、だな」  先程目の前に居た人物。声への違和感。     2008.3.20改
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