56人が本棚に入れています
本棚に追加
木崎の感じは一変した。もちろん、那智も警戒している。それに気付いた木崎に先輩とよばれた人物はゆっくりと那智に近付いた。那智も後ずさる。
「……お前、女だろ? 俺の目は誤魔化せね─―」
「─―何してんだ、バーカ」
先輩が喋っていたら、突如、那智の方向へ先輩が倒れてきた。那智は間一髪で避けたが、その先輩は案の定、顔からこけてしまう。那智は思わず、木崎と目を合わせて笑った。
「いってぇ、何してだよ、この糞空っ!!」
「うっせぇな、てめぇ、一回寝てろって、の!!」
糞空とよばれた人物は相手の急所を踏みにじった。もちろん先輩は気絶だ。
彼は頭にタオルを巻いてまるで工事現場の若い兄ちゃんだ。黒い半袖のシャツをまくりあげ、タンクトップ状にして、白い腕がある。あの木崎と喋っていた空色の目を持つあの、空と呼ばれる少年だった。
「わぁ、やってくれるな、空」
「大丈夫だろ。それより、雷、これ何処で拾ってきたんだい?」
「……え、いや、校門で空を待つ編入生だって言うから連れてきた」
「冗談言うなや、雷君。これは女の子だよねぇ?」
「け、けど、本人がっ!!」
「冗談言う子嫌いだなぁ、俺。雷君、今日は外で寝てね♪」
じゃ、と半笑いの状態で皆に手を振って、空少年は全速力で寮に逆戻りしてしまった。
「えっと……あれは……?」
「あれが君の探してた女嫌いの城島 空君やよ」
にっこり笑う木崎に那智はただあんぐりした。そう……女である自分と女嫌いの男が先程まで相手の事だけを考えて必死になっていたのだ。
「こんの糞理事ちょーー!!!」
マンションからの罵声。それはとどまる事を知らない。
「聞いてねぇぞっ! このタコっ!! ただ進ちゃんの子供としかっ……それで十分だとぉぉ?! てめぇ、死ね! 一回地獄行ってその頭を洗い流してきやがれっ! ………は? ……あぁ、次、会ったとき生きてられると思うんじゃねえぞ?! あぁ、いっぺん、頭かちわれ。命令、嫌とかしらねーよ!」
ようやく罵声はなり響き終る。未だ呆然としてしまった口は塞がらない那智をみて、思わず木崎が笑っている。
「あの、理事長相手にあんな事言う彼って……」
「あいつはここの裏番長やよ」
「う、うら?」
「表の番長が生徒会長。そしたらあいつは裏番長なんよ。ま、皆に愛されてる裏番やけどな」
最初のコメントを投稿しよう!