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――某駅前広場――
バスを降りた。
やはり東京、人が多い。人が多い分、余計蒸し暑い気がする。
溶けてしまいそうだ。
まぁ、とやかく言ってられないから。人混みの中に、自分も混ざった。
その時。不意に、肩を叩かれた。だが、後ろを振り返っても自分をみている人はいない。勘違いかと思ったが、次は下の方から声がした。
「あの、青種学園って……何処っすか?」
その言葉遣いからは想像出来ない外見をした、大体、14歳くらいの少女が話しかけてきた。かなり小さいではないか。これじゃぁ回りを見渡すだけでは分からないはずだ。
喋りかけられた男は少し驚いた様子でその“青種学園(アオダネガクエン)”の場所、行き方を教えた。彼自身、そこのOBで、今さっきまでその学園内に居たからよく知っていた。
目の前の少女は、今からいく場所の名前を間違えた上、何故か大荷物を持って一人で行く場所――男子校に向かおうとしているようだ。
教え終わると少女はペコりと頭を下げて歩いていく。持っていた紙をぐちゃぐちゃにして鞄に突っ込み、代わりに、少女の手に握られて、出てきたペットボトルの水をイッキ飲みする。その姿は、少しばかり男らしさも見え隠れしたが、どうもその男には女にしか写らなかった。
「糞っ……親父の最低最悪馬鹿野郎ー!」
──いや、何故いきなり?それに、親父って君、女の子でしょう──
男は思わず突っ込んだ。それに東京のど真ん中。少女は、そんな事を知る由も無く、勢いよく教えた通りのバスに乗って、男の視界から姿を消したのだ。
「なんだったんだ……ありゃ……。まぁ、また後輩等に聞きゃわかるか」
男は少女とはまったく反対方向を歩き始めた。男にとって、彼女との対面はそう遠くはなかったのだが。
反対に少女、いや、今から男子校に向かうのだ、もしかしたら少年かもしれないが、周りの目など一切気にしてはいなかった。
ただ、目的地に向かう。
目的はそれだけだ。
今はちょうど昼過ぎ、十二時を過ぎたころの話である。
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