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ついに少女Nは三重の引きこもりとなる。
家の中、部屋のなか、ついに押し入れの中から食事、排泄以外は一歩も出なくなった。
Nは外部からの侵入を頑なに拒んだ。
心はかすり傷さえ許さない。
自己に触れるのは自分のみ。
彼女は他人が何より怖かった。
Nはある時から外に出なくなり、殻作りに夢中になった。
そのうち何故こうなってしまったか、理由などとうに忘れてしまった。
外部を強化してるうちに内部の自分が弱くなっているのがわかった。
Nはその感覚が堪らなく快いと感じた。
このまま眠るように静かになるのが彼女の望みだった。
Nは自己愛が非常に強い少女だった。
他の誰よりも、誰にも愛されなくても彼女は彼女を愛した。
他人に傷つけられなくないから、Nは三重の壁で自分を囲った。
日の光も浴びず、Nは深海の貝のようにじっとしていた。
そうしていると、体中で自分を感じることが出来るような気がした。
一日中そうしているものだから、彼女は自分を想像し、やがて想像内に自分の世界を創造した。
その時にはNは家族以外の人間を思い出せないでいた。
だから脳内に浮かぶ邪魔者がいなかった。
彼女の世界では悪人も彼女を更なる人間へ格上げする引き立て役にしかすぎない。
居心地の良い世界に酔いしれて彼女は肉体を押し入れに置き去り、魂と実体のない体は楽園へ向かった。
彼女はそれまで他人と共有していた世界を忘れた。
肉体と引き換えに望んだ居場所へと自分を移した。
押し入れの中にはほとんど動かない人形がいた。
やがて彼女は二つの世界を往復することが出来なくなった。
この世界の正式な住民になってから二・三日ほどあとに、焼けるようなものすごい熱が彼女を襲った。
しかしそれも数時間しか続かず、終わったあとには更に彼女は此処に永住できる実感が沸いた。
現実から、彼女宛てのメッセージはなかった。
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