顔面倉白

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「ママ~あ」 四月半ばの火曜日、冷え込んだ朝 目黒区緑が丘にある東急大井町線縁が丘駅のホームで、ふたり連れの女子高生のうちひとりがケータイを耳に当てて、白い息を吐いていた。「あたしー、麻実。これ、琢磨のケータイ借りて話してるの。ちょっと大至急チェックしてほしいんだけど。あたし、部屋にケータイ置き忘れてるよね。……そう、ベッドの枕の下か、机の上かどっちかなんだけど。……早くしてね、学校遅れちゃうから。……あった?ああ、よかったー‼」 麻実という女の子は安堵のため息とともに、隣にいる友達にオッケーというふうにうなずいた。 「今、ケータイがないことに気がついて~、もしかしてバスの中に置き忘れたんじゃないかと思って、チョーあせったの。……え?部屋がきたない?そんなこといま言わなくたっていいでしょっ。ンでさあ、悪いけど持ってきて。……ちがうよ。駅じゃなくて学校に。一時間目の休み時間に校門のところで待ってるから。……なんでよー、いいじゃん。あんた、どうせヒマしてるんでしょ。朝のワイドショーみてるだけなんだから」 母親を「あんた」呼ばわりして、女子高生はつづけた。「あたし、ケータイないと死んじゃうの。だから、どうしても持ってきて。おねがい、おねがい、おねがい。……ありがと~お~」
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