冒頭

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2008年8月30日 太陽が照りつけ、まだ熱さの退かない夏の下旬。 熱を発するコンクリートの上を汗を流しながら歩く。 大通りを抜けた帰り道。 人通りの少ない河川敷沿いの道を、僕は彼女と歩いている。 並ぶ道沿いの並木の木陰を選んで歩きながら、汗をぬぐう。 あの頃と違って、手はごつごつしているし、肌も茶色ばんで綺麗では無くなってしまった。 顔や首のしわも増えた。 白髪は確実に黒髪を侵食しつつある。 河原で遊ぶ子どもの声が聞こえる。 僕はあの日、君と歩いて、君と手を繋いだ。 乾いたように晴れた空は、胸を焦がす。 空の青さは僕を気怠くさせる。 夏は嫌いだ。 ぬるい風の中に、君がかすかに笑った声がした。 思わず隣りを見る。 僕の腕には白い壺。 僕は彼女と歩いている。  
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